オリンピック・パラリンピックの人気“非公式競技”。 奥深き「ピントレーディング」の世界へようこそ

オリンピック・パラリンピックの人気“非公式競技”。 奥深き「ピントレーディング」の世界へようこそ

コカ・コーラ社はリオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック向けに
98種類のオリジナルピンバッジを作成しました

8月24日で、東京2020オリンピック開幕まであと700日となりました!
聖火リレー、開会式、競技場……などなど、気になる話題はたくさんありますが、今回は2年後のオリンピックで一大ブームになる“かもしれない”、「ピントレーディング」についてご紹介します。シド・マランツとパム・リッツという、二人の熱心なピントレーダーのエピソードから、ピンバッジを交換し合うという一見地味な行為の魅力に触れてみてください。

コカ・コーラ社はリオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック向けに 98種類のオリジナルピンバッジを作成しました

文=サマンサ・ストーナー、ハンナ・ニーマー

多くの人を虜にする「ピントレーディング」って何?

シド・マランツにとってのオリンピック・パラリンピック初体験は10歳代の頃、家族と一緒に訪れたローマ1960大会でした。その次に訪れたモントリオール1976大会で、彼は大会の“非公式競技”とも呼ばれる「ピントレーディング」の魅力に目覚めます。

ピントレーディングとは、ある特定のカテゴリーのピンバッジをそのファン同士で交換し合うことです。オリンピックのピンバッジが最初につくられたのは、ギリシャ1896大会。審判、選手、大会役員などを判別する目的で、厚紙で円形のバッジをつくったのが始まりでした。一般客の間でピントレーディングが急速に広まったのは、モスクワ1980大会以降のことです。したがって、マランツが自身のトレーダー人生の初期のころに手に入れたピンバッジは、まだピントレーディングが一般的になる前のもののため、現在は希少なお宝アイテムとなっているのです。

40年を超えるピントレーディング歴を誇るマランツのコレクション総数は、何と1万2,000個以上にのぼるそう。もちろん、今後の大会でもその勢いを緩めるつもりはありません。

マランツにとって、ピントレーディングの醍醐味は交換を通じて希少なピンを獲得したときの達成感です。彼の“狩猟本能”を特にくすぐるのが、各国オリンピック委員会(NOC)のピンバッジ。 NOCピンが配布されるのはその国の代表選手やコーチに限られ、一般への販売は一切していないことから、入手の難易度の高さが想像できるでしょう。

リオデジャネイロ2016大会の選手村に設置された「コカ・コーラ」パビリオン内で ピントレーディングに興じるコレクター

リオデジャネイロ2016大会の選手村に設置された「コカ・コーラ」パビリオン内で
ピントレーディングに興じるコレクター

ピントレーディングの大ベテランであるマランツは、過去大会のエピソードにも事欠きません。これまでにピンバッジを交換した相手の中には、なんと、フィンランド大統領やクリントン米国元大統領夫妻もいるというから驚きです。なかなか交換相手に出会えなかったバルセロナ1992大会では、地下鉄駅の構内でやっと見つけたコレクターを必死で追いかけたこともありました。

コレクター魂に火をつけるコカ・コーラ社のピンバッジ

コカ・コーラ社は1998年以来、オリンピック夏季大会・冬季大会の両方で、ピンバッジを交換したい人が集まるピントレーディングセンターを開設しており、マランツはその運営に関わっています。リオデジャネイロ2016大会では、コカ・コーラ社は98種類のピンバッジを作成し、目玉アトラクションとして「ピン・オブ・ザ・デー」プログラムを開催しました。

「ピン・オブ・ザ・デー」とは、リレハンメル1994大会で初めて導入されたプログラムです。大会期間中毎日、コカ・コーラ社が異なるデザインのピンバッジを配布。それらをすべて集めてパズルのように組み合わせると、「コカ・コーラ」ボトルの形になる、というものです。

ちなみにマランツは、大会中にスポーツ競技も観戦するのでしょうか? 尋ねてみると、「毎回、競技を観戦する時間も確保していますよ。ピントレーディングの素晴らしい点の一つは、競技の観客席でも、ピントレーディングセンターでも、会場やその周辺ならどこでもピンバッジを交換できるチャンスがあることです」という答えが返ってきました。

リオデジャネイロ2016大会向けにつくられたピンバッジ

リオデジャネイロ2016大会向けにつくられたピンバッジ

ピントレーディングが可能にする異文化コミュニケーション

もう一人、熱心なピントレーダーをご紹介しましょう。学校教師のパム・リッツは、ロサンゼルス1984大会でボランティアとして活動しているときに、オリンピックパークの中でピンバッジを交換している少人数のグループを見かけました。そこで、ピンバッジをいくつかお土産として買い、彼らの輪に加わってみたところから、リッツはピントレーディングの魅力にはまっていったのです。

「ピントレーディングは見知らぬ人同士が出会うきっかけを与えてくれます。世界中から集まった人々がピントレーディングに参加しているのは、感動的な光景ですね」と彼女は語ります。

マランツとリッツは共に、ピンバッジから聖火リレーのトーチまであらゆるオリンピック関連アイテムを収集する団体「オリンピン・コレクターズ・クラブ」の役員を務めています。過去数回のオリンピックでは、リッツはコカ・コーラ社のピントレーディングセンターで、ピントレーディングの初心者をサポートするボランティアとしても活動しました。

パム・リッツ(右)とオリンピン・コレクターズ・クラブ会長のドン・ビグズビー ソチ2014大会にて

パム・リッツ(右)とオリンピン・コレクターズ・クラブ会長のドン・ビグズビー
ソチ2014大会にて

リッツは、趣味を他の人と共有できることにやりがいを感じています。「私にとってピントレーディングの大きな楽しみは、ピンバッジの収集というよりも、さまざまな国からやって来た人たちと交流することなんです。ピントレーディングという共通言語によって見知らぬ人とつながることは、本当に楽しくてワクワクします。オリンピックは毎回、世界中の仲間──ノルウェー、中国、ロシア、カナダ、ギリシャ、フランス、オーストラリア、それから何十人もの米国の友人たちと再会する場なんです」と彼女は語ってくれました。

もちろん、東京2020オリンピック・パラリンピックでも、数々のオフィシャルピンバッジが登場予定です。2年後の東京では、世界中の人々とのピントレーディングが大流行しているかもしれませんね!

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