山梨・丹波山村との取り組みからみるコカ・コーラの水資源保全

2023年7月31日、日本コカ・コーラ株式会社とコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社は、山梨県の丹波山村、そして東京都・八王子市との協定の締結を発表しました。

「コカ・コーラ多摩工場(東京都東久留米市)周辺流域における持続可能な水資源の保全の推進」。その詳細と意義について、丹波山村での現地リポート、従業員、有識者へのインタビューをもとに紹介します。
 

コカ・コーラが掲げる「3つのOUR」
 

2021年、米国ザ コカ・コーラ カンパニーは、持続可能な水資源の保全と利活用に関する全世界共通の戦略を策定しました。

「責任ある水の利活用と水資源保全のためのグローバルフレームワーク(「2030年水資源保全戦略」)」。

その内容は、主に3つの柱によって構成されています。

1つ目は「OUR OPERATIONS(工場の運営)」。

これは文字通り、コカ・コーラの工場の運営において、水資源の保全に最大限貢献することを指します。コカ・コーラではかねてより、工場における水の使用量削減(リデュース)や、製造過程で使用する水の再利用(リサイクル)などを通じ、水を有効に活用するとともに、工場排水の適切な処理に取り組んでいます。

そして、2つ目の「OUR WATERSHEDS(流域)」。

水は絶えず循環する存在です。海や大地から蒸発した水が雲になり、雨や雪となって地表面に降って地下水や川に流れ、やがて海に至る。その一連の流れのなかで、人々の生活が隣接するエリアを「流域」という単位で捉え、包括的かつ適正な施策を講じる。
これこそが「OUR WATERSHEDS(流域)」という考え方です。

最後の3つ目に掲げられた「OUR COMMUNITIES(地域社会)」は、人々や地域とのさらなる連携の強化を意味します。

近年、水資源の保護、保全はもちろん、渇水や洪水など、水にまつわる事態が社会問題として大きく取り上げられるなか、コカ・コーラは地域社会とのリレーションをさらに高め、人々の安心、安全な日々をなお一層強力にサポートしていくという決意の表れのひとつといえるのです。

そんな「3つのOUR」がグローバル戦略として掲げられる以前から、日本のコカ・コーラシステムでは、全21工場、19の流域において水資源保全に向けたさまざまな取り組みをおこなっており、製品に使用した水の量の3倍以上を自然に還元してきました(※1)。

2023年、そんな取り組みの拠点のひとつに加わることとなった、山梨県・丹波山村。

コカ・コーラ多摩工場で使用する水を育む、多摩川源流部の小さな村とその流域におけるコカ・コーラの取り組みを、さまざまな視点からご紹介します。

※1/水源涵養率:日本国内のコカ・コーラシステム全21工場の全製品の生産量をベースに算出。工場周辺流域における森林保全活動などを通じて、製品に使用した水量を自然に還元。
 

山梨県・丹波山村レポート地域林政アドバイザーが語る「取り組みの価値」

山梨県の北東部に位置する丹波山村。

世帯数約300、人口500人あまりの小さな村は、東京都心部を含む武蔵野台地を生み出した大河・多摩川の源流域のひとつです。

この村で林業や木材にまつわる「株式会社TreeLumber」の代表を務め、「地域林政アドバイザー」としても活動する佐藤駿一さんに、村や山、水源の現状、そしてコカ・コーラとの取り組みなどについて話を聞きました。
 

──そもそも「地域林政アドバイザー」とは?
 

佐藤駿一さん(以下、佐藤さん):林業の専門的な知識を活用して行政をサポートするのが主な仕事です。就任したのは2020年の4月になります。

──丹波山村について教えてください。
 

佐藤さん:東京都と隣接していながら、ものすごく険しい地形のなかにぽつんとある小さな村で、多摩川の源流にあたります。

川を中心に森が広がり、川に沿って家々が点在しています。
 

──この村を流れる川の変化について教えてください。
 

佐藤さん:今ではすっかり流れも穏やかで浅くなってしまいましたが、30年くらいまえは、水の量が多かったのか川が深かったのか、人が飛び込めるほどだったそうです。
 

──川が浅くなった理由は?
 

佐藤さん:おそらくですが、山から流れ出た土や石が堆積したことによるものと考えられます。

通常は険しい谷は水の流れによってさらに削られていくというのが一般的で、逆に下流域では土砂が積もることで川底が高くなり、川幅が広くなっていきます。

本来、丹波山村の地形であれば、地域の川底は長い年月をかけて少しずつ削られて深くなっていくのが自然の摂理ではあるのですが、今はその働きが十分になされていないという見方もできるのではないかと思います。

つまり、上流域の森や木を健全化させることは、東京都で使用される水を豊かに育み、中流、下流を含む多摩川の流域を健全化させることにつながると考えています。
 

──上流域で実施されたアクションが、中流、下流の多摩川流域に影響を及ぼすまでの期間は?
 

佐藤さん:早いと思います。

たとえば、コカ・コーラとの取り組みのひとつに「森林作業道の整備」というものがあるのですが、間伐して野晒しになった木材を撤去せずに放置しておくことで、台風や豪雨に見舞われた際、押し流された木材が下流にある橋を壊し、ダムを決壊させる恐れがあるのですが、作業道が整備され、間伐材が運び出されることでその危機を回避することができます。

森や山を健やかに保つことは、中長期的な影響だけでなく、流域の明日を守ることにもつながるのです。
 

──コカ・コーラとの協業への想いは?
 

佐藤さん:まずはじめに「心強い」というのが正直な感想です。

本来であれば、すぐにでも着手すべきエリアの整備も、これまではコストや人手の都合でなかなか手を入れることができませんでした。

しかし、コカ・コーラが支援してくれることで、森林整備のスピードを加速させ、質を向上させることができる。その結果、流域全体を健全化させることが可能になります。

イメージとしては、森や流域の健全化が10年早まるという印象です。
 

徹底した水の管理とコカ・コーラのミッション

今年7月に発表された、東京都・八王子市、そして山梨県・丹波山村との水資源の保全推進に向けた協定をはじめ、工場の周辺流域におけるさまざまな施策を推進する関係セクションの担当者は、水資源保全への各種取り組みやコカコーラの使命をどう捉えているのでしょうか?

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社の経営戦略本部 サスティナビリティ戦略統括部 サスティナビリティリレーション2課に所属する藤久保敦士に話を聞きました。
 

──丹波山村での取り組みを含む水資源の保全推進における概要を教えてください。
 

藤久保敦士(以下、藤久保):まず、コカ・コーラシステムでは「KORE(Coca‑Cola Operating Requirements)」と呼ばれる世界共通の品質とオペレーション管理を行うシステムを採用しています。

これはお客さまに製品が届くまでの各過程において「品質」「食品安全」「環境」「労働安全衛生」などのすべてに紐づいたシステムとなっており、国際規格であるISOをはじめ、各種法令の要求事項を満たしつつ、さらに厳しい基準を課す内容です。

日本国内の各工場で使う水についても、その基準をクリアした対応をしています。
 

──「Reduce(リデュース)/工場における水使用料の削減」の具体的な対策について聞かせてください。
 

藤久保:水は限りある貴重な資源です。タンクの冷却に使用する水や殺菌のための蒸気の水、そして容器の洗浄に使った水などを回収して、工場内の清掃に再利用するなど、工場のなかで水を循環させることで、水の使用量の管理を徹底しています。

また、薬剤を使用しない電子線殺菌「エレクトロン・ビーム(Electron Beam)」システムや、使用した水から不純物を取り除く「RO膜」という特殊なフィルターなどの設備や装置を導入し、製造プロセスや工場設備を改善し、水の使用量の削減に努めています。
 

──続いて「Recycle(リサイクル)/工場における排水管理」について。
 

藤久保:コカ・コーラシステムの工場では、容器や設備の洗浄水、冷却水などの排水を適正に処理したうえで放流しています。国や自治体が定めている基準と「KORE」を照らし合わせ、より厳しいほうの基準によって管理しています。相当なコストと人員、時間と労力をかけて排水管理を実施しています。
 

──では「Replenish(リプレニッシュ)/地域の水源の調査と保全」についても教えてください。
 

藤久保:リデュースやリサイクルに比べて、やや一般の方に浸透していない取り組みのようにも感じますが、持続可能な水質の保全においては非常に重要な考え方のひとつといえます。

工場で使用する水は、その地域や流域で育まれた水です。ですので、それぞれの土地に還元することが重要であるという考え方が、このリプレニッシュです。

各工場の周辺流域の状況を調査し、その地域特有の課題を把握し、地域ごとの実情に合わせた多様な手法で涵養率をあげていく。それぞれの地域の特性に合わせた最適な手法を選択することで、持続可能な水資源の保全がより効果的に実現できると考えています。

丹波山村との協定締結は、このリプレニッシュを実行する過程のひとつといえます。

そして、現状、全国21ヵ所のコカ・コーラ工場のうち、水源涵養率が100%に達していないのは多摩工場のみとなりますが、今回の山梨県・丹波山村、東京都・八王子市との取り組みによって、国内のすべての工場周辺流域において涵養率が100%を超える見込みです。
 

──企業(=営利を目的とした組織)が膨大なリソースをかけて、工場周辺流域における持続可能な水資源の保全を推進する理由は?
 

藤久保:そもそも、コカ・コーラのビジネスは「水」がないと成り立ちません。つまりは、持続可能な水資源の保全は、我々の企業体としての持続可能性に直結するわけです。

コカ・コーラシステムは、各コカ・コーラボトラーがそれぞれで事業活動を展開しながらも、それと同時に、自治体や住民の方々と連携して持続可能な水資源の保全を積極的に推進し、関係する地域や流域の水環境を整備していく必要と責任があると考えています。
 

水の専門家が解説する「流域」という考え方の重要性

山梨県・丹波山村でコカ・コーラとタッグを組んで山林の整備、そして涵養率の増加に向けた施策を司る地域林政アドバイザー・佐藤さん、コカ・コーラ ボトラーズジャパンでサスティナビリティ戦略を実行する藤久保の話に続き、今回の取り組みが流域に、そして社会に与える影響について“水の専門家”に話を聞きます。

数々の関連書籍を上梓するアクアスフィア・水教育研究所の代表にして武蔵野大学客員教授の橋本淳司さんは、一連のコカ・コーラの取り組みをどう捉えているのでしょうか?
 

──コカ・コーラの取り組みについては?


橋本淳司さん(以下、橋本さん):はい、知っています。協定の締結に関するリリースを拝見し、8月には内容のヒヤリングもさせていただきました。以前に丹波山村へは研究のために足を運んだことがあったので、その地形とそこに住む人々の暮らしも含め、今回の施策も紐づけて理解しています。
 

──人々の暮らしとは?


橋本さん:水は人間の土地利用に大きく影響を受けています。水の循環というと、山に降った雨が川に流れ、地下に染み込み、のちに海に下るという構図を思い浮かべますが、これは人が一切関係していないときの話です。

人が流域に入ることで、水の循環は大きく経路を変えるんです。

それが度を超えてしまうと、水が溢れたり、逆に水が枯渇したりという状況になります。これが世界的に起こっている、水を取り巻く社会問題のひとつといえます。

今回のコカ・コーラの涵養に向けた取り組みは、そもそもの健康的な水の循環を取り戻すアプローチだといえるでしょう。
 

──山梨県・丹波山村とコカ・コーラの取り組みは、山や森だけでなく、多摩川流域を広く視野に入れた施策ですが、そもそも多摩川という河川はどういう存在?


橋本さん:もともと多摩川は、武蔵野台地と呼ばれる今でいう東京に住む人々の貴重な水資源です。さらに遡れば、江戸の発展を支えてきたのが多摩川といえます。

つまりは、その源流部にある丹波山村は、現在の首都・東京の繁栄を支えた村という解釈もできるかもしれません。
 

──水質の変化については?


橋本さん:江戸のころは飲み水をはじめ田畑への使用など、主に食を支える存在でした。しかし、明治期以降、近代化とともに農業、工業の規模が拡大し、戦後は生活雑排水や農業排水がそのまま流されるようになり汚染が進むことになりました。

以降、下水道の発展によって水質は徐々に改善され、今に至ります。
 

──橋本さんもフォローアップ委員を務める、2014年に制定された「水循環基本法」において「流域」という考え方の重要性が謳われているが、その理由は?


橋本さん:流域は水の流れと人々の生活の最小単位だと考えます。かつては、舟運(しゅううん)によって流域のなかで人々の生活が営まれていましたが、明治以降、自動車と鉄道の発展によって流域という捉え方が薄まり、同時に、水質の悪化がはじまったと考えられます。

近代化や自然環境の変化など、さまざまな理由はありますが、水に関係する災害などを頻繁するようになり、今一度、かつてのような流域という単位をひとつの運命共同体として捉える考え方が注目されたといえます。

事実、流域という考え方は、人々の日々の生活を守るという観点でも、水質保護による生物多様性という観点でも非常に有効だと考えます。
 

──コカ・コーラと丹波山村の取り組みは、主に涵養率の増加にフォーカスを当てた施策ですが、涵養の重要性について教えてください。


橋本さん:流域を保護するために、涵養は大きな役目をもっています。

そして、涵養におけるいくつかのポイントのなかでも、源流部における森林整備は非常に重要です。それにより水源を保全し、中下流部の水害を緩和させることが可能です。

企業と自治体と市民が手を組んで、涵養に向けた森林整備をおこなうことは、自然環境が不安視されるなか大きな意味をもつと考えます。

また、コカ・コーラのような発信力のある企業が取り組みをおこなう、そのこと自体に意義があると思っています。
 

──その意味は?


橋本さん:環境教育的な効果も期待できるということです。それまで山にいったことのない人が山に踏み入ることで、森林がもついろいろな機能を肌感をもって理解する機会になると考えます。

情報発信力のある企業が取り組みことによって、流域というものを人々が認知できるようになればいいなと思います。

今後、上下流がひとつの流域として連携することで解決できる課題はいくつもあると感じています。

たとえば上流では集落が運営できなくなっていたり、仕事が創出できなくなっていたり、森林が荒廃していたり、耕作放棄地がある。下流ではエネルギーの使いすぎで温室効果ガスが増えたり、食料自給率が低下したり、災害が増加したり。

それら社会課題を、上流と下流のそれぞれの特性で補填し合うことができれば、人々はウェルビーイングな生活を実現できるのではないかと考えています。
 

コカ・コーラが実現するのは水資源の保全と、そして.....

東京都・八王子市、山梨県・丹波山村だけでなく、日本全国の21の工場の周辺地域において、自治体を含む50以上の団体と水源の保全や保護に向けた協定を締結しているコカ・コーラ。

先出の橋本さんはこう言いました。

「コカ・コーラの取り組みは、環境教育という側面でも価値がある」。

社員や地域、そして流域の人々に涵養や自然保護の重要性を理解してもらうための環境教育・体験プログラム「コカ・コーラ『森に学ぼう』プロジェクト」なども、各工場の水源域にて長きにわたって開催しています。

コカ・コーラによる持続可能な水資源の保全の推進は、環境を守るだけではありません。

世の中の意識を変え、流域に住む人々の生活と心を豊かにする、次の時代にとって必要なアクションのひとつと考えているのです。